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見た目より自覚的で攻撃的な態度 [Thoughts]

日本の学校のシステムに馴染めない時期が何年か続いた頃、オトナの人たち(親であったり教師であったり関係ない人であったり)からしばしば受けたアドバイスに「人をみて、同じようにしなさい」というものがあります。新しい環境に溶け込み、受け入れられるには「人をみて、人と同じように行動する」ことが重要だと。不思議なくらい、同じことを何度も言われた記憶があります。

それは、当時日本の学校のあり方に馴染もうとしない「帰国子女」に手を焼く学校現場として、当然のアドバイスだったかもしれません。でも「人をみて、人と同じように行動する」ことが、実際にどんなことを意味するか、深く考えている人はあまりいなかったような気がします。決して悪く言ってるわけではなく、単に事実として。



二十年以上の間、見続けている夢があります。女の子に、じっと見つめられる夢です。と書くといい夢みたいですが、それは驚きと悲しみと蔑みがいっしょになったような目で、ぼくはその女の子に何か必死で言い訳をしようとしていて、つまり悪夢です(わりにいろんな悪夢をみます)。

その女の子は、中学二年から三年にかけて同じクラスだったSさんという子です。Sさんは中学二年のときに大阪から転校してきて、最初に座った席がぼくの隣でした。家が近かったこともあって、ぼくはSさんと割にすぐ仲良くなりました。よく話をしたし、他の何人かといっしょに交換日記(恥)みたいなこともしたりました。特に恋愛感情的なものはなかったと思いますが、家に遊びに行ったことも何度かあります。

でも三年生のクラス替えがあってすぐ、何かがきっかけで(あるいは何のきっかけもなく)、Sさんは誰からも口をきいてもらえなくなります。それだけでなく、Sさんに少しでも触れるたら、三十秒以内に別の人に触れないと「S菌」に感染し、「S菌」に感染した人間は、その日一日Sさんと同じ扱いを受けます。一夜にして実に見事なルールとシステムが出来上がっていました。

ひょっとすると何かきっかけがあったり、誰かが音頭を取ったりしたのかもしれませんが、とにかくSさんにしてみれば、それはある朝突然起こったように思えたはずです(ぼくにも、そう思えました)。

はじめ何が起こったかわからず混乱した様子だったSさんは、ようやく自分がどのような状況に置かれているのか、その事態を認識したところでした。そのとき、偶然Sさんとぼくの目があいました。彼女はぼくに何か話しかけようとしたように見えました。

そこに、うっかりSさんに触れてしまって、慌てて「S菌」をうつす相手を探していた誰かが、たまたまそばにいたぼくに触れました。これで、三十秒以内に誰か他の人に触れないと、ぼくは「S菌」保持者となって、同じようにみんなから忌み嫌われる存在になるわけです。

そのとき、ぼくがしたのは、おそらくぼくの人生でもっとも恥ずべき行為のひとつだったはずなので、あまり詳しくは説明しませんが、とにかくぼくは慌てて逃げる別の誰かに、S菌を「うつした」のです。それもかなり必死に。周囲はその様子を見て笑い転げていました。

その間中、ぼくはSさんの視線を感じていました。結局目を合わせることがなかったのですが、目にしなかったはずのSさんの目を、ぼくははっきりと感じることができました。そして、その夢を何度も見るようになるのです。

現実がそのまま再現された夢のこともあれば、それがベースになって形を変えたと思われるさまざまな悪夢のこともあります。ただ、夢の中で女の子がぼくに向ける目つきは共通しています。「驚きと悲しみと蔑みがいっしょになったような目」です。

後悔しましたが、それはなかったことにできる種類のことではありませんでした。



でも同時に重要なのは、そのときぼくははじめてクラスの「内側に入った」ような気がしていたことです。「人をみて、人と同じようにした」結果として。しかも、自分の意志で。自分の中にもそういう要素がちゃんとあったということです。

「二度とこういうことはしない」と誓ったところで、それは単に優しさとか思いやりとか、そういう問題ではない。それは本能の問題なのです。孤独を避ける本能、自分の身を守る本能の問題です。「二度とこういうことはしない」ということは、集団の内側に入ろうとすることを意識的に避けることであり、つまりはその本能に逆らうということなのです。

そのために必要なのは「強さ」だとぼくは長い間思っていました。寂しさに耐える強さと、物理的に抵抗する強さ。でも、ある程度大人なってわかったことは(ある程度大人になるまでいったい何年かかるんだという話はありますが)、寂しさに耐えて、物理的に抵抗するだけでは、社会の中で自分の存在する場所を失うことにもなるということです。

だから必要なのは、集団の中に物理的に存在しながら、無理に内側に入ろうとしない態度です。そのためには、強さと同じくらいの柔らかさが必要なのです。

そして、それはちょっと考えるよりも、そして見た目よりもずっと自覚的で攻撃的な態度です。
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コメント 2

ずんずん

涙でた。
「ため」になるなー。ありたがいなー。

by ずんずん (2010-03-22 08:00) 

Tak

ずんずんさん>
へびーなこと書いちまいました。
by Tak (2010-03-22 19:56) 

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