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名前が呼べないことについての一連の会話 [Talks]

1)ふろふき大根など食べつつ。

「奥さんのことなんて呼んでるんですか?」
「普段なんて呼ぶのかってこと?」
「そう」
「呼んでない」
「呼んでない?」
「結婚する前は名字にさんづけで呼んでけど、今はしっくりくる呼び名がないから呼ばない」
「なんて名前?」
「杉浦さん」
「(笑)」
「笑うか普通?」
「私も彼の名前を呼べないんです!!」
「あら、仲間だ」
「彼は私のことを名前で呼ぶし、自分のこともそうして欲しいっていうんだけど、どうしても呼べないんです。名前を呼んだ瞬間に自分がまるで知らない人といっしょにいるような気がして怖くなります」
「名が体を現していない?」
「どう思います?」
「わからないけど、ただしっくりしないんだよね。その感じはすごくよくわかる」
「でも他に誰も同意してくれないですよ。史上初めてです」
「ちなみに彼の名前は?」
「ユキヒロ」
「(笑)」
「笑うか普通?」
「すいません(笑)」
「私が名前で呼ばないことで、彼が傷ついてるのがわかるんです。でも〈ユキヒロ〉って口にすると、まるでそれは彼じゃないみたいな気がして。わかります?」
「わかる。でもうちは、ふたりともそうだから」
「奥さんも?」
「そう。だから大丈夫」
「ねえ、つかぬことを聴いていいですか?」
「なに?」
「エッチのとき、名前呼べないと不便じゃないですか?」
「(笑)」
「どうなんです?(笑)」
「不便だよ(笑)」
「ですよねー(笑)」

2)タクシーを待ちながら。

「でも、名前を呼べれば、もっと近くに行けるのにな、と思います」
「名前を呼ぶかどうかなんて、関係ないような気もするけど」
「そうですか?」
「名前を呼べないことが距離を近づけることだってあると思う」

3)別れ際。

「確かにさっき、私たち一瞬だけものすごく近いところにいましたよね」
「そうかもね」
「でも本当は名前呼びたいですよ」
「呼べる名前が見つかるといいね」
「うん」
「じゃ、また」
「おやすみなさい」

4)とかとか。
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