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OASYSのアウトライナー [アウトライナー]

押し入れの中から昔のパソコンやソフトのパンフレットを整理したファイルが出てきました。WordPerfect 5.1JとかEG Bookとか、そういう強烈にレアな内容物の中で目を引いたのが、富士通のワープロ専用機OASYSのパンフレットです。

実はぼくがはじめてアウトライナーというものの存在を知ったのは、富士通のワープロ専用機OASYSからでした。確か大学3年生だったから、1989年頃のことです。

「ワープロ専用機」なんて知らない、という人も今ではいるかもしれませんが、当時はワープロ専用機がようやく一般人に普及しつつあるという頃。大学生でワープロを持っているなどという人間は多くはなく、ましてパソコンはいわゆるマニアやオタクのものという印象でした。ちなみに当時は国内でパソコンといえばNECのPC-9801、OSはMS-DOS。Windowsは存在はしていましたが、実用にはほど遠い状態でした。

そんな中で、ぼくは比較的早い時期からワープロを使っていました。手書きよりも早く、大量に書きたかったから。当時、小説を書いたり演劇の台本を書いたり、まあ、そういう(よくいる)タイプの大学生で、書くことにかなり切実な需要があったわけです(時期が早かったせいで、カナ入力の呪いに今に至るまで悩まされるわけですが)。

80年代の中ごろから、日本でもプロの文筆家がワープロを使いはじめ、文章、特に長文を書く際のメリットも徐々に伝えられるようになっていました。特に安部公房、高橋源一郎、曾野綾子、佐木隆三、山根一真といった人々が積極的に発言していたと思います。

でも、当時のワープロに対する世間的な認識は、第一に「漢字変換機械」、次に「印刷機械」という程度のもので、特に普及価格帯のワープロの宣伝やパンフレットは、飾り文字や飾り罫線の種類を誇るものが主流でした。要は24×24ドットのギザギザの文字でカセットテープのラベルをつくったり、せいぜいPTAや町内会の名簿をつくるというくらいのものでした。

実際、初めて買ったワープロは、秋葉原「おのでん」のエスカレーター脇に無造作に置かれていたのを展示品処分品のパナソニックU1EXという機種。大学のレポートなんかをそれで書いたわけですが、ディスプレイの表示は10行、一度に編集できる文書サイズの上限はA4数枚、編集できる文字数にも行数制限があるというスペックでは、長文を書くことは事実上不可能でした。職業ライターや作家が使う機種は、プロ向けの高級機で、そこらへんに売っている家庭用の製品とはぜんぜん違うものだということを痛感したわけです。

それでも、なんとかもうちょっとマシな機械を、ということでパンフレットを物色していたところに見つけたのが、例のOASYSのパンフレットでした。

「思考を助け発想を刺激するアウトラインプロセッサの機能搭載」
「アイデアのランダムな入力→整理・骨子(階層)の形式→見出し(題目)の入力・入れ換え→細かな記述の修正→……と、全体を把握しながら文書作成が可能。発想が浮かんだら部分的に書き込み、ふたたび全体に戻って章建てを推敲しながら文書作成が行える「思考ツール」です。」
oasys.jpg
今改めて読んでみると、当時の予備知識も何もない自分がその説明を読んだだけでアウトライナーの何たるかはわからなかったと思うんですが、結局その機種(OASYS 30SX)を買ってしまったのは、その「アウトラインプロセッサ」機能に強く興味をひかれたからです。

ほとんどアウトライナーのためだけにOASYSを買ってしまったわけですが、実際のアウトライナーとしてのOASYSの使い心地はどうだったか? OASYSのアウトライン機能は相当に原始的な代物で、特殊な「見出し記号」で始まる行を抜き出して表示し、編集するというスタイルでした。一応本文を非表示にした状態でアウトラインを操作することが可能でしたが、見出しレベルは3階層までしかなく、複雑なアウトライン操作はできませんでした。見出し記号を使わずに、インデントの深さで階層を示すこともできましたが、OASYS30シリーズでは原稿用紙30枚程度が一度に編集できる限界だったことからして、もともと大した長文は扱えなかったわけです(それでも当時の家庭用のワープロの中では容量の大きい方でした)。

それでもアウトライナーの片鱗を垣間見ることはできたし、それはとても重要な意味を持つことなんだという感覚はありました。なんといっても、ワープロが文章を書くことをサポートしてくれる、世の中にそんな考え方が存在することを教えてくれたのはOASYSでした。

調べてみると「アウトラインプロセッサ Outline Processor」とは、アメリカのパソコン用ソフトの世界で流行している文章を書くためのソフトの一種で、これまでのワープロよりも一歩踏み込んで、文章を書くときの「考える」作業をサポートしてくれるソフトだということでした。このときのアウトライナーに対する興味が広がって、その後、奥出直人、大河内勝司、紀田順一郎といった人たちの本やインタビュー記事で「本物の」アウトライナーの世界に触れ、ThinkTank、MORE、GrandView、Acta、Voila!、Microsoft Word、FullWrite Professional、MindWriteなどなどと、とそれらの動作するパソコン、特にマックが憧れの存在になっていきます(そしてその1年後に最初のマックを買うことになります)。

それにしても、(実際にどのくらい役に立ったかは別として)当時のワープロ専用機にアウトライナーを搭載したという富士通の決断はすごいことだったと思います。
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