お話の時間（あるいは風俗問題） [Thoughts]
少し前、うちの職場の元派遣社員のＮさんとお酒を飲んだ。Ｎさんとは一度飲んでみたいと思ってたんだけど、お互い節目の年齢の子無し夫婦ということもあり、後半は赤裸々トーク。
そこでの話題のひとつが「オトコの人ってみんな風俗に行くんですか？」というもの。妻としてのＮさんのスタンスは「相手がプロならば許容する」というもの。いろいろ見聞きした中では、ひとつの典型といえるかもしれない。ちなみにうちのTomo.さんのスタンスは「中途半端な遊びをするくらいなら本気で恋愛しろ」。もう一方の典型、なのかどうかはわからない。
それは置いておいて、オトコはみんな風俗に行くのか？ というのは難しい問題だ。一般化できないし。とりあえずの回答は「行く人は行くし、行かない人は行かない」 。なんて言うと、逃げてると思われるから、ちゃんと話をするんだけど。
◆
個人的に風俗には行かない。別に風俗の存在を否定するつもりはないし、自分もオトコだから、オトコの性欲の仕組みというものはわかってるし、需要があるのはわかる。でも、自分は行かない。
じゃあ、生まれてから一度もそういう場所に足を踏み入れたことがないかといえばそんなことはない。
◆
大学を出て最初に就職した会社では、お得意さんといっしょに飲みに行き、その流れで風俗に行くというのが半ば慣習化していた。もちろん、領収書を切ってもらう。もう二十年近く前、バブル末期のこと。今でもそういう慣習があるのかどうかは、知らない（今の職場にはたぶんない、と思う）。
その慣習のことを最初に知ったとき、心の底から驚いた。接待（？）のためとはいえ、会社の金でセックス（またはそれに類する何か）をするというのは、人間としての最低ラインを切っているような気がした。別にモラル的な意味ではなく、行くなら自分の金で行けばいい。「仕事」とはいえ、そういう先輩や上司や、その接待を平気で受けているクライアントを内心軽蔑した。
とはいえ、これも仕事だと言われれば、先輩の「今夜、行くから」の一言で行かざるを得ない。その会社には一年しかいなかったけど、結局その種のお店には6〜７回くらいは行ったと思う。
2回目で嫌になって、その日たまたま当たった女の子（ミラちゃん）に「今日は付き合いで来てるだけだから、何もしなくていい。お金は普通に払うから」と言った。言い出すのに結構勇気が必要だったけど、ミラちゃんは「いいよ」と言っただけだった。それで、60分間ベッドに並んで座って、ウーロン茶を飲みながら話をして帰った。
ぼくはその店に行ったときには可能な限りミラちゃんを指名するようになった。もちろん誰かに先をこされてしまうこともあるから、そんなときは仕方なく別の女の子を指名して、やっぱり「お話」をしていた。どの女の子も「お話」に付き合ってくれたけど、ある程度深い話をするようになったのはミラちゃんだけだった。ミラちゃんとは、けっこういろんな話をした。
会社の話とか今付き合ってる彼女の話とか今やろうとしてることの話とか猫の話とか。ミラちゃんの方も中野でいっしょに暮らしている男の話とか高校時代はけっこう成績が良かった話とか専業主婦になりたい話とか猫の話とか（そうだ、猫の話をよくした）。
何度目かにふと気になって、「こんなふうに話だけして帰る客って、いるの？」と訊いてみたら、「わりといる」ということだった。
「たくさんとは言わないけど、お客さんみたいに、領収書を受けとっていく人の中には、けっこういるよ。こっちとしては、別にお金をもらえれば文句はないし」
◆
自分だけが人と違うような気がしても、同じようなことを考え、同じようなことをしている人間だってちゃんといる、ということなのかもしれない。
今になって考えてみれば、あの会社の同僚や先輩たちのうちの何人かも、実は「お話」をして時間を潰していたのかもしれない、と思う。それどころか、接待を受けるクライアントさんだって、ひょっとするとそうだったのかもしれない。自分も含めて誰もそんな話はしなかったから、実際どうだったのかはわからないけど。
職場とか学校とか、そういう公式の集団の中でよりも、気が進まずに入った風俗で、たまたま当たった女の子との間で交わされる言葉の方が、本物だったりする。
◆
というような話をしたら、「私が勤めていた会社でも、同じようなことがありましたよ」とＮさんは言う。
夕方になって、部の男の人たちが集まってジャンケンをしている。負けた人がお客さんや本社から来たお偉方を〈引率〉していくんだって。誰をどこに〈引率〉していくのか最初はわからなかったけど。「お話」だけして帰ってくるという話も、やはり聞いたことがある。
◆
みんなそんなふうにして、自分を救っている。
◆
で、結局オトコの人はみんな風俗に行くのかというそもそもの問題に対する回答は、出ないままだった。人によるよ、そんなの。
そこでの話題のひとつが「オトコの人ってみんな風俗に行くんですか？」というもの。妻としてのＮさんのスタンスは「相手がプロならば許容する」というもの。いろいろ見聞きした中では、ひとつの典型といえるかもしれない。ちなみにうちのTomo.さんのスタンスは「中途半端な遊びをするくらいなら本気で恋愛しろ」。もう一方の典型、なのかどうかはわからない。
それは置いておいて、オトコはみんな風俗に行くのか？ というのは難しい問題だ。一般化できないし。とりあえずの回答は「行く人は行くし、行かない人は行かない」 。なんて言うと、逃げてると思われるから、ちゃんと話をするんだけど。
◆
個人的に風俗には行かない。別に風俗の存在を否定するつもりはないし、自分もオトコだから、オトコの性欲の仕組みというものはわかってるし、需要があるのはわかる。でも、自分は行かない。
じゃあ、生まれてから一度もそういう場所に足を踏み入れたことがないかといえばそんなことはない。
◆
大学を出て最初に就職した会社では、お得意さんといっしょに飲みに行き、その流れで風俗に行くというのが半ば慣習化していた。もちろん、領収書を切ってもらう。もう二十年近く前、バブル末期のこと。今でもそういう慣習があるのかどうかは、知らない（今の職場にはたぶんない、と思う）。
その慣習のことを最初に知ったとき、心の底から驚いた。接待（？）のためとはいえ、会社の金でセックス（またはそれに類する何か）をするというのは、人間としての最低ラインを切っているような気がした。別にモラル的な意味ではなく、行くなら自分の金で行けばいい。「仕事」とはいえ、そういう先輩や上司や、その接待を平気で受けているクライアントを内心軽蔑した。
とはいえ、これも仕事だと言われれば、先輩の「今夜、行くから」の一言で行かざるを得ない。その会社には一年しかいなかったけど、結局その種のお店には6〜７回くらいは行ったと思う。
2回目で嫌になって、その日たまたま当たった女の子（ミラちゃん）に「今日は付き合いで来てるだけだから、何もしなくていい。お金は普通に払うから」と言った。言い出すのに結構勇気が必要だったけど、ミラちゃんは「いいよ」と言っただけだった。それで、60分間ベッドに並んで座って、ウーロン茶を飲みながら話をして帰った。
ぼくはその店に行ったときには可能な限りミラちゃんを指名するようになった。もちろん誰かに先をこされてしまうこともあるから、そんなときは仕方なく別の女の子を指名して、やっぱり「お話」をしていた。どの女の子も「お話」に付き合ってくれたけど、ある程度深い話をするようになったのはミラちゃんだけだった。ミラちゃんとは、けっこういろんな話をした。
会社の話とか今付き合ってる彼女の話とか今やろうとしてることの話とか猫の話とか。ミラちゃんの方も中野でいっしょに暮らしている男の話とか高校時代はけっこう成績が良かった話とか専業主婦になりたい話とか猫の話とか（そうだ、猫の話をよくした）。
何度目かにふと気になって、「こんなふうに話だけして帰る客って、いるの？」と訊いてみたら、「わりといる」ということだった。
「たくさんとは言わないけど、お客さんみたいに、領収書を受けとっていく人の中には、けっこういるよ。こっちとしては、別にお金をもらえれば文句はないし」
◆
自分だけが人と違うような気がしても、同じようなことを考え、同じようなことをしている人間だってちゃんといる、ということなのかもしれない。
今になって考えてみれば、あの会社の同僚や先輩たちのうちの何人かも、実は「お話」をして時間を潰していたのかもしれない、と思う。それどころか、接待を受けるクライアントさんだって、ひょっとするとそうだったのかもしれない。自分も含めて誰もそんな話はしなかったから、実際どうだったのかはわからないけど。
職場とか学校とか、そういう公式の集団の中でよりも、気が進まずに入った風俗で、たまたま当たった女の子との間で交わされる言葉の方が、本物だったりする。
◆
というような話をしたら、「私が勤めていた会社でも、同じようなことがありましたよ」とＮさんは言う。
夕方になって、部の男の人たちが集まってジャンケンをしている。負けた人がお客さんや本社から来たお偉方を〈引率〉していくんだって。誰をどこに〈引率〉していくのか最初はわからなかったけど。「お話」だけして帰ってくるという話も、やはり聞いたことがある。
◆
みんなそんなふうにして、自分を救っている。
◆
で、結局オトコの人はみんな風俗に行くのかというそもそもの問題に対する回答は、出ないままだった。人によるよ、そんなの。
コメント 0