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思考を強制する流動的なアウトライン [アウトライナー]

アウトライナーには「構造的でありながら柔軟でもある」という相反する特性がある。正確にいうと、「アウトライナーで編集されるアウトライン」の特性と言えるかもしれない。

これは以前ある人のツイートで気づかされたこと。それこそが、単なるワープロやエディタで作られたアウトラインや、Excelで作られた構成案との違いだと思う。



ずいぶん前になるけど、アウトライナー否定派と肯定派による「アウトライン=ツリー構造」と「網目構造」の優劣論争を紹介したことがある。

アウトライナー否定派は、アウトラインのツリー構造よりも網目構造の方が複雑な情報を扱えるという。

ここでいう網目構造とは、たとえば相互にリンクされたハイパーテキストや、複数のタグがつけられたEvernoteのノートブックをイメージすればいい。

これに対してデイブ・ワイナーは、アウトライナーをText on Rails(流れていくテキスト)と表現し、否定派が考えているよりもずっと柔軟なものなのだと反論する。あるいはアウトライナーによるライティングはfluid(流動的)なのだと。

ツリー構造の問題点は、野口悠紀雄が「『超』整理法」の中で名付けた「こうもり問題」を考えればわかりやすい。あるトピックが複数の分類に当てはまってしまうという問題。

ツリー構造であるアウトラインでは、ある内容を見出し「A」の下にくくったら、それは「A」の下にしか存在できない。しかし、現実世界の情報はそんなに単純ではなく、しばしば複数の属性を持つ。

文章を書いている場合であれば、このネタはAの部分にも関係しているし、Bの部分にも関係しているけどどっちに入れたらいいだろう? ということはしばしばある。

一方網目構造、たとえばEvernoteのノートブックでは、あるひとつの情報に「A」というタグと「B」というタグを同時につけることが可能だ。したがって、網目構造の方が柔軟であり、現実世界の複雑な情報を扱うことができる。

できあいの情報を格納し、整理するというという場面を考えれば、これはおそらく正しい。しかし、文章を書いたり考えたりする場合、話はそんなに単純ではない。



アウトライナーで扱うアウトラインは、見た目はツリーでも通常のツリーよりずっと複雑な内容を扱うことができる。なぜならそれはワイナーのいう通り「流動的なツリー」だからだ。

アウトライナーでつくるアウトラインは、常に流動するプロセスであり、完成品ではない。

確かにアウトラインの中ではある記述は「A」と「B」どちらかにしか分類できない。しかし、ここでのアウトラインは、この記述は「A」と「B」のどちらに含むべきかという思考プロセスの、最新のスナップショットにすぎない。

だから、今「A」に分類されている情報が、次の瞬間には「B」に再分類される可能性を常にはらんでいる。今は見た目「A」に分類されているけれど、同時に「B」でもあり、「C」でもある可能性をはらんでいる。

それはもはや単純なツリーではない。



そして重要なのは、アウトラインが最終的に完成品の文章としてアウトプットされるまでには、いずれにしても「A」か「B」かを選ばなければならないということ。

複雑なものを勇気を持って単純化しなければならない瞬間がくる。そのこと自体が思考を強制し、発動する効果がある。実は多くの視点、解釈、結論は、この強制的な単純化のプロセスから生まれてくる気がする。

「文章にしたり人に説明したりするとその対象がよりよく理解できる」と言われるけど、それは複雑で絡み合った情報を、単純なツリーやリニアな語りに強制的に変換しなければならなくなるからだ。その過程で情報は咀嚼され、パースペクティブが確定する。

アウトライナーは「流動的なツリー」であることで、そのプロセスを助けてくれる。

逆に網目構造では複雑なものが複雑なまま存在できてしまう。それは一見するといいことだけど、ともすると素材が素材のままになってしまう可能性がある。



もちろんこれは優劣の話ではない。ツールは目的によって使い分ければいい。

ただ、思考の道具としてみた場合の有効性は、ツリー=アウトライン否定派が言うほど単純には決められないということ。
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コメント 4

gofujita

ここでこの論争を知り、そこからたくさんのことを学びました。仕事でプログラミングすることもあるため、網目構造というかgoto文を使うと、コード全体の複雑さが急増することも身にしみています。

この世界や自然は網目構造というモデルで表現しやすいけれど、人が理解できるのは、ダイナミックな(美しい)ツリー構造で表現された論理ではないかと考えていました。網目をツリーで表現するとき、どうしても捨てる部分が出てくる。この強制も大切なプロセスだという視点に、賛同します。

そして、「アウトライナーは『流動的なツリー』である」。ぼくが知っている中で、一番うまくアウトライナーを表現した言葉だと思います。
by gofujita (2013-11-10 14:27) 

blackdog

 「こうもり問題」として紹介されている問題は、私にとっても懸案だった問題です。
 現在、私はこれを、或るテーマのツリー構造を作る際には、オリジナルのトピックでツリーを構成するのでは無く、そのトピックをコピーしたものでツリー構造を作り、オリジナルのトピックは常に単独の状態を保つ、と言う方法で解決しています。
 これだと、テーマの数が幾つに増えても、そのテーマのそれぞれにトピックのコピーを配置する事が出来ます。
by blackdog (2013-11-10 21:03) 

Tak.

gofujitaさん

そうか、そんな前の記事から読んでいただいてたんですね。

「流動的なツリー」というのは、今のところ自分の中でもいちばんしっくりきます。
ツリーはあくまでも便宜的なものにすぎないというようなことは、スコット・ローゼンバーグさんも言ってましたね。
by Tak. (2013-11-11 18:41) 

Tak.

blackdogさん
おひさしぶりです。
それ、ぼくもときどきやります。
ちなみにアウトラインの形式を保ったまま「こうもり問題」を解決してたのが、ワイナーがかつて作ったMOREの「クローン」という機能です。
あるトピックが「A」の下にも「B」の下にも存在できる(一方を更新するともう一方も更新される)という機能。
ワイナーはその問題を最初から意識してたわけですね。残念ながらワイナーの最新作品のFargoにはありません。
今使えるものだと、マックの「NEO」がクローンの機能を持っています。
by Tak. (2013-11-11 18:47) 

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