愛しいWordの愛しいマニュアルにささげる [Diary]
いらない本や書類を処分していたら、Microsoft Word ver.6(Mac版)のマニュアルが出てきた。書店で買うマニュアル本ではなく、Wordのパッケージに付属してきたやつ。
Word6には思い入れがある。
WordはMS-DOS版のワープロとして始まったけど(C言語のハンガリアン記法で有名なチャールズ・シモニーがコードを書いた)、最初に大きなシェアを獲得したのはMac版だった。80年代末にはMacの標準欧文ワープロのような存在になっていた。
通常のワープロ機能に加えて、ページレイアウトソフトにせまる高度な書式設定機能、そしてアウトライナーが統合されたWordは、日本のMacユーザーの間で憧れの存在だった。
しかし、Excelが比較的早い時期から日本語化されていたのに、Wordの日本語版はなかなか登場しなかった。やきもきしながら指をくわえているうちに、あろうことかWindows版Wordが先に日本語化されるというショッキングな展開になった。
■
そんな経緯を経て、Mac版としては初の日本語版となったのがWord6だった。発売当日の朝、秋葉原まで(ほとんど始発に乗る勢いで)買いに行ったことを覚えている。誰も行列なんかしてなかったけど。
たしか5万円近く払って、それでもほくほくと抱えて帰ってきたWord6のパッケージは、数十枚のフロッピーディスクと数冊の分厚いマニュアルが入った巨大な箱だった(ほとんど立方体)。その中の一冊が冒頭のマニュアルだ。
スタートアップマニュアルなんかじゃなく、厚さ3cmくらいの分厚い「本」。今では信じられないけど、昔のパッケージソフトには、こういうフルサイズのマニュアルが付属していたのだ。
で、ぼくはこのマニュアルがとても気に入っていた(だからこそ今日まで保存してあったわけだ)。Wordに限らず、この時期のマイクロソフトのマニュアルは本当に良くできていたと思う。正直言って、今書店で売られているたいていのマニュアル本よりも、ずっと。
体系的で網羅的。ムリに初心者向けだったり目的オリエンテッドだったりしない。丹念に読んでいけば、Wordという巨大なソフトの全体像が把握できる。もちろん充実した目次と索引のおかげで、必要な場合のレファレンスとしても役に立つ。当然アウトライン機能についても詳細に解説されている。今めくってみても、「文書作成の工程の最初から最後までをカバーする」という、Wordが本来目指していた思想がにじみ出てくる。
なんといっても、マニュアルの奥付の下にひっそり書かれた1行が泣かせる。
「このマニュアルはMicrosoft Wordを使って組版されました」
■
ソフトとしてのWord6の評判は決して高いものではなかった。英語版では当初大量のバグが残っていた上に、前バージョンのWord5の評価が非常に高かったこともあって酷評され、マイクロソフトが異例のダウングレードサービスを行ったことで話題になった。
日本語版が出た時点ではかなり改善されていたものの、それでも当時使っていたMacのLC475では起動に何分もかかる有様だった。動作がぎくしゃくとしている上に、Windows版をそのまま移植したUIもMacの流儀にそぐわなかった。ツールバーをぜんぶ表示させるとディスプレイの2/3(1/3ではない)くらいが埋め尽くされてしまう。憧れ続けたver.5までのエレガントさとはえらい違いだった。
それでも、がまんして使った。なんといっても憧れのWordが日本語で使えるというのは何ものにも代え難かった。それに、アウトラインモードとスタイルの連動はWord97以降よりも安定していた。
Word6が好きだったかと言われると「うーん」とうなってしまうけど、この時代にマニュアル熟読しながら宝の山を掘り起こすように使うことができのは、幸せだったと思う。
特に、PCに当然のように入っているWordを、マニュアルをほとんど読むことなく使ってきた人が、Wordに隠された宝物にほとんど気づかないままでいるのを見ていると。
もちろん、今の時代にこんなマニュアルを作ってもコスト的に見合わないだろうし、読む人なんかいないだろうけど。
■
そんな愛しいWord6のマニュアルを捨てた。かわりにこの記事を書いて記憶しておく。
Word6には思い入れがある。
WordはMS-DOS版のワープロとして始まったけど(C言語のハンガリアン記法で有名なチャールズ・シモニーがコードを書いた)、最初に大きなシェアを獲得したのはMac版だった。80年代末にはMacの標準欧文ワープロのような存在になっていた。
通常のワープロ機能に加えて、ページレイアウトソフトにせまる高度な書式設定機能、そしてアウトライナーが統合されたWordは、日本のMacユーザーの間で憧れの存在だった。
しかし、Excelが比較的早い時期から日本語化されていたのに、Wordの日本語版はなかなか登場しなかった。やきもきしながら指をくわえているうちに、あろうことかWindows版Wordが先に日本語化されるというショッキングな展開になった。
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そんな経緯を経て、Mac版としては初の日本語版となったのがWord6だった。発売当日の朝、秋葉原まで(ほとんど始発に乗る勢いで)買いに行ったことを覚えている。誰も行列なんかしてなかったけど。
たしか5万円近く払って、それでもほくほくと抱えて帰ってきたWord6のパッケージは、数十枚のフロッピーディスクと数冊の分厚いマニュアルが入った巨大な箱だった(ほとんど立方体)。その中の一冊が冒頭のマニュアルだ。
スタートアップマニュアルなんかじゃなく、厚さ3cmくらいの分厚い「本」。今では信じられないけど、昔のパッケージソフトには、こういうフルサイズのマニュアルが付属していたのだ。
で、ぼくはこのマニュアルがとても気に入っていた(だからこそ今日まで保存してあったわけだ)。Wordに限らず、この時期のマイクロソフトのマニュアルは本当に良くできていたと思う。正直言って、今書店で売られているたいていのマニュアル本よりも、ずっと。
体系的で網羅的。ムリに初心者向けだったり目的オリエンテッドだったりしない。丹念に読んでいけば、Wordという巨大なソフトの全体像が把握できる。もちろん充実した目次と索引のおかげで、必要な場合のレファレンスとしても役に立つ。当然アウトライン機能についても詳細に解説されている。今めくってみても、「文書作成の工程の最初から最後までをカバーする」という、Wordが本来目指していた思想がにじみ出てくる。
なんといっても、マニュアルの奥付の下にひっそり書かれた1行が泣かせる。
「このマニュアルはMicrosoft Wordを使って組版されました」
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ソフトとしてのWord6の評判は決して高いものではなかった。英語版では当初大量のバグが残っていた上に、前バージョンのWord5の評価が非常に高かったこともあって酷評され、マイクロソフトが異例のダウングレードサービスを行ったことで話題になった。
日本語版が出た時点ではかなり改善されていたものの、それでも当時使っていたMacのLC475では起動に何分もかかる有様だった。動作がぎくしゃくとしている上に、Windows版をそのまま移植したUIもMacの流儀にそぐわなかった。ツールバーをぜんぶ表示させるとディスプレイの2/3(1/3ではない)くらいが埋め尽くされてしまう。憧れ続けたver.5までのエレガントさとはえらい違いだった。
それでも、がまんして使った。なんといっても憧れのWordが日本語で使えるというのは何ものにも代え難かった。それに、アウトラインモードとスタイルの連動はWord97以降よりも安定していた。
Word6が好きだったかと言われると「うーん」とうなってしまうけど、この時代にマニュアル熟読しながら宝の山を掘り起こすように使うことができのは、幸せだったと思う。
特に、PCに当然のように入っているWordを、マニュアルをほとんど読むことなく使ってきた人が、Wordに隠された宝物にほとんど気づかないままでいるのを見ていると。
もちろん、今の時代にこんなマニュアルを作ってもコスト的に見合わないだろうし、読む人なんかいないだろうけど。
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そんな愛しいWord6のマニュアルを捨てた。かわりにこの記事を書いて記憶しておく。
よいアプリのデザインがそうであるように、そのマニュアルも開発者の表現手段なんですね。実はぼくは、マニュアルがとても苦手です。少なくとも本屋のマニュアルは買ったことがありません。これは昔、ダイナブックのアラン・ケイに憧れていたことも関係しています。たぶん。でも、この記事を読んで、少し考えが変わりました。遅いかも知れませんが..。
そして、すっかり忘れていましたが、Word6日本語版が出る前、Mac用Word5英語版がお気に入りだった一方、日本語ワープロを転々と変えていたことを思い出しました。Word英語版のような、日本語の作文環境が欲しかったからです。ぼくが Word を気に入っていた時代があったことと、あの重いWord6の立方体をかかえて帰ったときのどきどきを思い出し、自分の人生の長さがちょっと嬉しくなりました。
by gofujita (2014-06-25 19:27)
gofuitaさん
良いマニュアルだったらぼくはそれを抱えて喫茶店に行って深煎りコーヒー飲めます(^^;)。
Word5、よかったですよねえ。今のWordしか知らない人にはたぶん想像つかないと思いますが。94年頃オランダに行ったときに、現地の書店で買ったWord5のマニュアル本は今でも大切にとってあります。
by Tak. (2014-06-28 16:24)