weのスイッチ [Diary]
アメリカに住んでいた頃(70年代後半)は冷戦のまっただ中で、でもベトナム戦争はもう終わっているという時期だった。
敵は、ソビエトだった(日常会話の中ではロシア人Russiansと呼んでいた)。
細かい政治的な話はよくわからなかったけど、とにかく世界には自分たちが属するこっち側(we)とソビエトに代表されるあっち側(they)があって、いちおう日本も「こっち側」に属している、くらいに認識していた。
学校の授業とかでソビエトの話が出てくるときには不思議とweで思考していた。つまりアメリカ(が属する陣営)を代表して思考していたのだ。theyに対してweはどのように行動するべきか、というように。
ところで面白いことに、日本のことをアメリカ人に対して説明するときにもやっぱりweで思考してるのだった。もちろんこの場合は日本人を代表しているのだ。
自分がどの集団のモードで思考しているかによって、同じweでも代表するサイドが自然にスイッチする。
もちろん意識はしていない。
■
アル中のおじいさんが亡くなった後、隣の家には若い男三人組が引っ越してきた。長髪で騒々しくて、いつも大きな音量でレコードをかけるので(イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」とかはそれで覚えた)両親はあまり良くは思っていなかったみたいだ。
あるとき家の前の芝生に水をやっていると、そのうちの一人が話かけてきた。「ヘイ坊主」みたいな感じで。
「坊主、お前んちはチャイニーズか?」
「ジャパニーズだ」
「おお、ジャパニーズか。最近の日本はどんな感じだ?」
「大きな台風が来て大変だよ」
ちょうど台風で大きな被害が出たことを、日本語ニュースで見て知っていたからだ。
「 (We) have lots of typhoons」
日本を代表してそういうと、彼は大きく頷いた。
「(You) guys sure have lots of typhoons」
しばらくの間オキナワにいたんだと彼らは言った。
オキナワには台風たくさん来たよ。せっかくの休暇のときに限って来るんだ。すごい風の中を意地でも遊びに行くんだけど店はみんな閉まっててさ。
ぼくは頷く。オキナワに台風が多いのは理科で習って知ってる。
「(They) sure have lots of typhoons」
そのときのぼくにとって、オキナワはweではなかった。
もちろん意識はしていない。
■
そのオキナワ帰りの長髪にーちゃんとこれからもよろしくな、と握手したことをたぶん両親は知らない。
あ、それから声をひそめて「イーグルスみたいな音楽をみんなが聴けば戦争なんか必要なくなるんだぜ……」と教えてくれたことも。
敵は、ソビエトだった(日常会話の中ではロシア人Russiansと呼んでいた)。
細かい政治的な話はよくわからなかったけど、とにかく世界には自分たちが属するこっち側(we)とソビエトに代表されるあっち側(they)があって、いちおう日本も「こっち側」に属している、くらいに認識していた。
学校の授業とかでソビエトの話が出てくるときには不思議とweで思考していた。つまりアメリカ(が属する陣営)を代表して思考していたのだ。theyに対してweはどのように行動するべきか、というように。
ところで面白いことに、日本のことをアメリカ人に対して説明するときにもやっぱりweで思考してるのだった。もちろんこの場合は日本人を代表しているのだ。
自分がどの集団のモードで思考しているかによって、同じweでも代表するサイドが自然にスイッチする。
もちろん意識はしていない。
■
アル中のおじいさんが亡くなった後、隣の家には若い男三人組が引っ越してきた。長髪で騒々しくて、いつも大きな音量でレコードをかけるので(イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」とかはそれで覚えた)両親はあまり良くは思っていなかったみたいだ。
あるとき家の前の芝生に水をやっていると、そのうちの一人が話かけてきた。「ヘイ坊主」みたいな感じで。
「坊主、お前んちはチャイニーズか?」
「ジャパニーズだ」
「おお、ジャパニーズか。最近の日本はどんな感じだ?」
「大きな台風が来て大変だよ」
ちょうど台風で大きな被害が出たことを、日本語ニュースで見て知っていたからだ。
「 (We) have lots of typhoons」
日本を代表してそういうと、彼は大きく頷いた。
「(You) guys sure have lots of typhoons」
しばらくの間オキナワにいたんだと彼らは言った。
オキナワには台風たくさん来たよ。せっかくの休暇のときに限って来るんだ。すごい風の中を意地でも遊びに行くんだけど店はみんな閉まっててさ。
ぼくは頷く。オキナワに台風が多いのは理科で習って知ってる。
「(They) sure have lots of typhoons」
そのときのぼくにとって、オキナワはweではなかった。
もちろん意識はしていない。
■
そのオキナワ帰りの長髪にーちゃんとこれからもよろしくな、と握手したことをたぶん両親は知らない。
あ、それから声をひそめて「イーグルスみたいな音楽をみんなが聴けば戦争なんか必要なくなるんだぜ……」と教えてくれたことも。
コメント 0